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神戸地方裁判所 昭和46年(ワ)608号 判決 1973年1月26日

主文

被告は原告に対し神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付第一二九一号による被告の代表役員大崎良三解任並びに代表役員丹波恵就任登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

主文と同旨の判決

(被告)

一、本案前について。

「本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

二、本案について。

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二  原告の主張

(請求の原因)

一  原告は被告教会の代表役員であり、登記簿上も後記代表役員変更登記が経由されるまでは被告教会の代表役員であつた。

二  ところが、被告は被告教会代表役員丹波恵名義による代表役員変更登記申請に基づき、神戸地方法務局昭和四五年九月二九日受付第一二九一号をもつて、同年三月一九日代表役員大崎良三解任並びに同日代表役員丹波恵就任の登記(以下、本件登記という)を経由した。

三  しかしながら、本件登記は次のような理由により無効である。

すなわち、被告教会は一個の独立した宗教法人であり、その包括団体は宗教法人日本基督教会(以下、日本基督教会という)であるが、被告教会規則には代表役員の任免などにつき他の宗教団体や機関によつて制約を受けるなどの定めは一切なく、また、宗教法人日本基督教会規則にも右のような制約事項の定めがないところ、被告教会自身において前述のような代表役員の任免を行つた事実はない。

しがたつて、本件登記はその原因を欠き、かつ、申請の権限のない者によつてなされたものであるから、無効である。

四  そこで、原告は被告に対し本件登記の抹消登記手続を求める。

(被告の本案前の主張に対する答弁及び反論)

一  本案前の主張一の事実のうち、訴外西村八郎外六名と被告外一名との間の別件訴が提起され、その後別件訴において、請求の追加により本件登記の抹消登記手続が求められていることは認めるが、その余の事実は否認する。

同二の事実のうち、原告が先に被告教会の主任教師に就任し、昭和四五年九月二九日日本基督教会中会において戒規除名処分に付され、日本基督教会大会に上告したが、同年一二月三日棄却されたことは認めるが、その余の事実は争う。

二  被告教会が代表役員の任免を行つておらず、原告は依然その代表役員であるから、違法に変更された登記について真実に合致させるため、その抹消を求める法律上の利益を有する。

被告主張の除名処分は教会内部の問題であり、被告教会規則にはそれについて何らの定めもないから、包括団体の規定により被告教会の代表役員の資格を喪失するいわれがない。被包括団体がその代表役員の任免を全く行つていないのに、包括団体が宗教法人法第一二条の規定に反して被包括団体の代表役員を勝手に任免し登記しても、被包括団体の代表役員を除名しておきさえすれば、被包括団体の代表役員は違法に変更登記されたまま、違法な変更登記の抹消を訴求できないこととなり、法による救済の途を鎖されて了う不合理が生ずる。

(被告の本案の主張に対する反論)

日本基督教会憲法・規則はいずれも文部大臣又は知事の認証のない内規であるから、被告教会規則を変更し得るものではなく、被告教会規則に反するものは無効である。

ところで、宗教法人法第一二条は宗教法人の被包括団体の独立性を尊重し包括団体の支配・制約を免れさせようとの趣旨から、宗教法人にあつては、代表役員の任免などについて他の宗教団体によつて制約される事項を定めた場合には、その事項を具体的にその宗教法人規則に掲げて知事の認証を受けなければならない旨を定めているが、認証済の被告教会規則には代表役員の任免について他の宗教団体によつて制約されるようなことは一切定めていない。もつとも、被告教会規則第三二条は「日本基督教会の規則中この法人に関係がある事項に関する規定は、この法人についても、効力を有する。」旨定めているが、このような一般的な規定では、宗教法人法第一二条にいう制約事項を掲げたことにならないのみならず、宗教法人日本基督教会規則には被告教会の代表役員の任免を制約する事項はない。

したがつて、被告教会にとつて他の宗教団体である日本基督教会の機関である中会が被告教会の代表役員の任免をしても、被告教会にはその効力が及ばないのである。

ところが、日本基督教会中会議長丹波恵は昭和四五年三月一九日被告教会の代表役員に丹波恵を任命し、丹波恵は同日就任を承諾し、中会及び中会常置委員会の決議に基づいて被告教会の代表役員の任免を登記したのである。すなわち、被告教会以外の者により被告教会の代表役員の任免が行われたのである。

第三  被告の主張

(本案前の主張)

一  原告はその傀儡である訴外西村八郎外六名の名において被告外一名に対し決議無効確認請求訴訟(神戸地方裁判所昭和四五年(ワ)第一二九三号事件、以下、別件訴という)を提起し、その後別件訴において、請求の追加により本件登記の抹消登記手続を求めている。

したがつて、本件訴は別件訴(追加請求)とは実質的に同一事件であるから、二重訴訟として不適法である。

二  仮にそうでなかつたとしても、原告は昭和三九年被告教会の牧師(主任教師)として就任以来、被告教会員に対する偏頗な取扱いをして遂に被告教会の機能を喪失させ、自らは日本基督教会憲法・規則に違反して分離行動を執るに至つたため、種々の経緯を経て、昭和四五年九月二九日日本基督教会の近畿中会(以下、中会という)において戒規除名処分に付され、日本基督教会大会に上告したが、同年一二月三日棄却されて除名処分が確定したので、日本基督教会の教師の資格を喪失し、同日以降、日本基督教会並びに被告教会とは何らの関係も有しなくなつたものである。

したがつて、仮に原告が登記簿上被告教会の代表役員たる地位を回復し得たとしても何ら得るところがなく、原告の本訴請求は権利保護の利益を欠くものである。

(請求の原因に対する答弁)

請求の原因一の事実のうち、原告が被告教会の代表役員であることは否認し、その余の事実は認める。

同二の事実は認める。

同三の事実のうち、被告が一個の独立した宗教法人であり、その包括団体が日本基督教会であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(本案の主張)

一  原告は昭和三九年被告教会の牧師(主任教師)・代表役員として就任以来、自己の愛憎に基づく偏頗な取扱いを行つたため、昭和四五年三月初め頃被告教会の総会における長老選挙を再三繰返しても長老が選出されず、被告教会員から不信任を表明され、被告教会の機能を喪失させた。

そこで、日本基督教会中会は昭和四五年三月一九日の定時総会において日本基督教会規則第五条三項に基づき被告教会について同規則上の教会を解散して伝道教会とし、同規則第一条第四項により日本基督教会中会の直轄教会としたので、原告は被告教会の主任教師たる地位を喪失し、したがつて、被告教会規則第七条により被告教会の代表役員たる地位を喪失するに至つた。

そして、被告教会が代表役員を欠くに至つたので、日本基督教会中会は前同日定時総会終了後引続き、その常置委員会(日本基督教会憲法第四章第四条第二項により設けられた適当な機関である。)を開催して、当時の中会議長であつた丹波恵を被告教会の主任教師に任命し、丹波恵は被告教会規則第七条に基づき被告教会の代表役員に充てられ、同年九月二九日その旨の登記を経由したものであつて、以上の事実は昭和四六年三月二三日開催の日本基督教会中会定時総会においても確認された。

二  ところで、宗教法人は宗教団体が法人となつたものであるから、自ら法人としての性質(以下、世間性という)と、宗教又は宗教団体としての性質(以下、宗教性という)の二つの性質を有するが、宗教法人法は信教の自由に基づき、宗教法人の規則に定むべき事項として代表役員、責任役員など宗教法人の世間性に関する事項について規定するに止まり、宗教法人の宗教性に関する事項についてはこれを規定していないのである。

したがつて、法律は宗教法人の世間性に関する事項に対しては介入することができるが、その宗教性に関する事項に対しては関与することができない。

もつとも、宗教法人日本基督教会規則は主として世間性に関する事項を規定した規則であり、日本基督教会憲法・規則は宗教性に関する事項を定めた規則であるが、前者が第三条の外、第一五条、第一八ないし第二一条などにより後者に従うべき旨を定め、両者全く融合して日本基督教会の規則をなしているのである。

そして、被告教会規則も、また、宗教法人日本基督教会規則と同じく、主として、宗教法人設立のために定められた世間性に関する事項を記載した規則であるが、第三二条により、宗教法人日本基督教会規則並びに日本基督教会憲法・規則のうち被告教会に関係がある事項に関しては被告教会についても効力を有する旨を定め、被告教会規則には主任教師の任免など宗教性に関する事項の規定がないから、当然宗教法人日本基督教会規則並びに日本基督教会憲法・規則が被告教会規則として効力を有するのである。

第四  証拠(省略)

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